「獣にまつわる習作2 最後の一皿」
男は路地裏の動物売りであった。若く謙虚なその男は、狩猟の心得こそ未熟ではあったが、獣を見る目とそれを扱う感性において人よりも大きく抜きん出ていた。男の扱う希少な獣たちはいつだって毛並みよく、好事家たちの間で評判となり、取り合いと慰みの相手となること常だった。
ある時、男にとある獣が届けられた。それは誇り高く、人間と馴れ合おうとはせず、かといって暴れることすらしなかった。まるで淡々と死を待っていたのだ。彼は難題に心を奪われ、できる限りの世話を焼いた。しかし、彼が成果をあげることはなかった。
男は東西の獣を集め、その骨と肉を分かち、ただその一匹に捧げた。浸食海岸に巣くう魚、砂漠の洞穴に潜む毒持つ六つ足の馬、禁忌の地よりもたらされた生ける結晶。既に一匹の価値を超える金銭を費やし、秘められし血を捧げ、失敗し、落胆し、それでも諦めようとはしなかった。
ある晩に、その誇り高い一匹は遂に男の皿を喰らったという。そのためだけに、男は調理の腕前を積み上げ、数多の妙味珍味を知りつくした。その成果だ。男は満足げに笑った。「やっとわかったよ。君に食べられるというなら、それもいい」