「レイン、トーメント・レイン」
少年は殺しを生業としていた。スマートな殺しなどとは無縁であり、常に返り血とそこにあった。「ひい、ふう、みい……」発光傘を肩にかけ、強くなるばかりの雨をかわしながら、少年は報酬のプラスチック紙幣を数える。今日も上々であった。不用心な私立探偵をナイフで一突きするだけの簡単な仕事だ。
本来、ターゲットのもとには万能線材料たるハル・ヒューマノイドの護衛がいるはずだった。それを条件に彼の報酬は跳ね上がっていたのだが、どういうわけか、そのヒューマノイドは探偵を守ってはいなかった。事故によって電源が切れたのか、あるいは。少年は深く考えることもなく、僥倖に感謝していた。
少年はネオンが漏電し弾ける路地に差し掛かり、傘の傾きをぞんざいに直す。彼は液体を感覚し、額を拭った。赤い血糊がうっすらと伸びる。空から降った液状ハルの矢が、少年の額から股間までを貫いていた。彼の意識はそのまま霧散し、しとしとと降るハルが音もなく少年の身体を貫いていく。雨に混じる。
「いつ、むう……」ハルの雨はいつしか止み、万能線材料のたまりから“たまり”は起き上がる。液体の彼女に赤いセルフレームの眼鏡はなく、代わりに、少年の血がべっとりと付着していた。“たまり”は我を忘れたまま、ひたすらに数を詠んでいた。その数は、本来の雨が止むまで、終わることはなかった。