「スピリッツ、エレメンツ、それにまつわる何か」

「スピリッツ、エレメンツ、それにまつわる何か」

 南の大陸には広大な砂漠があり、長く冒険家の行く手を阻んできた。複葉機の墓場としても知られるその不毛の地には、雨を喰らう陸鯨が棲むという。それは歴史書の始めから終わりまでそこにおり、ゆえに砂には水が残らないのだと民は語る。

 ある時、一人の不運な旅人が鯨のもとへ迷いこんだ。鯨は瑞々しい肉にたいそう心踊らせ、語った。「君は今から、私の中で雨になるのだよ」それに旅人は答えた。「お前がそのつもりだというなら、もはや私にはどうすることもできない。ただ一つ、私には心残りがあり、それだけは叶えさせてほしい」

 鯨は快くそれを許した。旅人は懐から酒を取りだし、一杯、二杯と注いだ。「本当ならば許嫁に届けるはずの酒だが、誰にも届かないで失われるというなら忍びない。せめても、私とお前とで飲んでやってはくれないか」旅人は鯨の前に盃を置き、鯨はそれと旅人をひと呑みにしてしまった。

 陸鯨を見たという噂は、複葉機の時代が終わってからめっきり少なくなった。ただ、砂漠の民はそれについてまだ語り継いでいる。砂の海の右と左とに、ゆらゆら揺れては遠ざかるあの水面、それこそが、あの陸鯨が気持ちよく酔っ払った今の姿であり、砂漠に降った雨なのだと。