「獣にまつわる習作4 尻尾の瓶」
初春のある日のこと、私が物置の整理をしていると、見覚えのない酒瓶が出てきた。長らくの砂埃に曇りガラスと化したその瓶の中には、黒々とした何かが満たされているようだった。軽く傾けてみてもそれは揺れる様子もなく、ましてやお酒のようでもない。私は首を捻った。
外から見てもよくわからない。私が意を決して蓋をあけてみると、中の黒いものはもぞもぞ動いたように見えた。さあ覗きこもうと私が瓶を傾けると、突然、瓶の口からは黒い猫の尻尾がでろりとはみだした。私は呆気にとられ、それが左右に揺れるのをしばらく眺めていてしまった。
酒瓶から垂れる猫の尻尾は、しばらくの間、左右に揺れたのち、大人しくなった。試しに指先で触れてみると、艶やかな毛とその奥の柔らかい骨の感触が伝わってくる。尻尾は触れられたことに気づいたのか、再びぶるりと左右に揺れたのち、酒瓶の中に戻っていった。
その夜、私は父にこっぴどく叱られた。どうやらあの瓶で遊ぶのはいけないことだったらしい。父は一通り怒ったのち、あれとは別の瓶を持ってきて、遊ぶならこちらにしろと私に告げた。その瓶には、どうしてなのか、私の背に繋がる尻尾が入っていた。なるほど。